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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)546号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人山崎保一の上告理由について。

論旨は、原判決が罹災都市借地借家臨時処理法一〇条は罹災建物の敷地に建物の建設ができない場合でもその適用があるものと解して、本件のごとく建物建設不能の借地まで同条により保護されるものと判断したことは法の解釈を誤つた違法があると主張する。

罹災都市借地借家臨時処理法一〇条は、借地権者が借地上に登記ある建物を所有すれば借地権を第三者に対抗できるのに(建物保護法一条)、戦災による建物の滅失により右の対抗力を失うものとするときは、借地権者の地位を不安定にし、借地関係を混乱に陥れ、ひいては戦災都市復興の障害ともなるので、かかる借地権者の保護を図ろうとする趣旨に出た規定である。されば、その終局の狙いが戦災都市の復興、したがつて戦災地における建物建設の促進にもあることは疑ないけれども、より直接的には借地権そのものの保護を目的とするものであるから、借地権者が現に建物を建設できるか否かによつてその適用を二、三にすべきものではない。もし、建物建設の促進という面だけを強調するなら、借地権者に建物建設の意思がないか又は無資力その他の事情により近く建設の見込がない等の場合にも同条の保護を受けえないことになるが、その然らざることは明瞭であるとともに、たとえ建築基準法五五条の規定上現状においては建物建設が不可能でも、借地権者は隣地の所有権を取得し又はこれを借り増せば建設も可能となりうるのであるから、基準法上現に建物建設が許されない借地であるからといつて、これを全く無価値のものとみて特に他の借地権と区別し、法律の保護を否定することは妥当を欠くものというべきである。それ故、かかる借地であつても、これにつき処理法一〇条の保護が与えられるものと解するのを相当とする。所論の原判決理由は必ずしも明瞭とはいえないが、その趣旨とするところは前段に述べたところと同様な見解の下に本件各借地にも処理法一〇条の適用があるとしたものと解しえられ、その判断は正当であるから、これと異なる見解に立つて原審の法律解釈を非難し、原審審理不尽の違法があるとする所論は採用できない。また、原判決は所論基準法の適用を否定した趣旨でないことも明らかであり、したがつて違憲の主張もその前提を欠き採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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